「発射―――!」
「ぶっ」
浮かれた声が聞こえるのと同時に視界が遮断され、プールで溺れたときの感覚が三上と近藤を襲った。外階段残りあと4段。成すすべなく顔面で受けたのはホースの水。
二人の視界が戻ったのはホースを持つ中西がかなり高く山なりに水をまきはじめてからだった。
「あ、虹」
笠井だけが反応した小さい人口の虹が浮かんだ瞬間復活した三上が虹職人の元へ詰め寄った。ぼたぼたとしずくを飛ばしながら。
「オイコラ―――中西」
「三上涼しそうだねぇ。今日の昼は冷やし中華だよ」
「ああそうらしいなあ」
「悪気はまったくなかったの」
「発射って聞こえたんだけど」
ぐぐぐ、とホースをはさんで笑いながら本気で奪い合う。咽ていた近藤がようやく苦しそうに息をついた。
「あ゛~~~、変なとこはいったぁぁ」
「あはは。気持ち悪いよなーそういうの」
「うわ、ネギ飛ばすな」
「あ゛~~~~」
涙目になっているの近藤に笑いながら根岸が頭を振った。もうすでに色が濃くなったアスファルトと隣の高田に水滴が飛ぶ。
一層濃くなっていくところではまだ笑いながらホースの奪い合いが続いていた。
「謝罪とかいらねえ、これか」
「ゴメンナサイ」
「なかにしぃいいっ!!」
「もー、ごめんって言ってんのに、何でそう心狭いの」
「お前の」
「あ」
「あ――っ!!中西先輩はっけ――んっ!覚悟――っ!!」
この場にいないことが不思議であった藤代が言うが早いか手にしていた蛍光オレンジと黄色の水鉄砲を噴射させた。そしてそれは命中―――――――中西が盾にした三上に。
「よし、それかしてあげる三上」
「笠井! 出力最大!」
「了解です」
「うぇええっ!? ちょ、タクだめだって! 裏切り者! って先輩っ! それ冷たいとかじゃなくて痛いっスよ!!」
「うるせえ!! 逃げんな!!」
「お前らなにしてるんだ?」
「あ、キャプテ」
藤代が後ずさってぶつかったのは渋沢だった。
このチャンスをこの最大被害者が見逃すわけもなく、三上は藤代の襟をつかんで隙間を作るとホースごと突っ込んだ。
「ぎぁあああぁあっっ!! つめたっ!! ちょ先輩マジカンベン!!!!」
「知るか!! 笠井! もっと上げろ!」
「あ、もう最大です」
「えーい」
どさくさにまぎれて根岸の手からキレイな直線を描いたそれはそれは見事に笠井の隣で傍観を決め込んだ中西の後頭部へヒットした。
「ほほー、いい度胸だね、ネギちゃん」
「あああっ!! 違うくて!! 笠井に当てようとしてね!?」
「え?俺だったんですか!?」
「うんうん、分かってる分かってるよ」
「分かってない! ぎゃーこっちくんなー!」
乱発した流れ弾が更なる被害者を生み出し収集がつかなくなり始める。
「ぶほっ!」
「あっ! 近藤! ネギ何てことを……もう近藤の命はわずかだってのに!」
「うわ、ごめん。お前の犠牲は無駄にしな、って待って中西! タイム!!」
「ネギ、ここは戦場だよ」
乱射しすぎて水の無くなった水鉄砲に中西は二本目のホースを向けた。
走り回ったおかげで背中から抜けたホースは水の勢いに翻弄されて地面でのた打ち回っている。藤代はそれを素早く拾い上げ、反撃とばかりに三上めがけて振り下ろすつもりだった。
「藤代」
そう、もし今そのホースが渋沢の顔を直撃していなかったら。
「きゃ、ぷてん……!!」
「ははは、藤代やり逃げはずるいぞ」
じょぼじょぼと身長差と筋力と引力を使って藤代の脳天にホースを置き片手で藤代自身を真下に固定して一滴の無駄もなく吸収させた。
「ぎゃあああっ!! タクー助けてーっ」
「無理」
「つめてえええっ!! 高田ー助けてーっ」
「無理」
「…………お前ら風呂場使えないこと知ってるか?」
もう何がなんだかわからなくなってはしゃぎまくるチームメイトを見た辰巳が呟いた言葉の意味と雲行きの怪しい空に気づくのはもう少し後。