「っだ、だめ!」
「…今更何言ってんだ、お前」
千石の余裕の無い拒絶の言葉に跡部は心底不思議、と言う顔をした。
「だって、んなの、絶対無理!! 無理ってか嫌!!」
微妙に色気があるような言葉を交わしながら、ベットの背もたれへとあとずさる。千石にしては珍しく余裕がないようだった。
「うるせえ。お前が無理だろうが嫌だろうが関係ねえんだよ」
そして跡部はその千石をじりじりと追い詰めていく。
何故に2人がこんな状況になっているのか、と言えば決定的な原因はお互い分らない。だが発端は千石の「跡部くんってキス好きだよね」の一言だった。
いつものように跡部のベットでゴロゴロしながら気の無い話をしていて。そんなときにそんな台詞を吐いてしまったら、今まで自分達はどんなタイミングでキスしてたか。なんて考察を始めてしまい、そしてその考察は「どちらから」することが多いか、に辿り着いてしまったのだ。
「この俺様が腰砕けるぐらい毎回してやってんのに、てめえからは無いなんてお前の平等精神に差し障るだろうが」
「跡部くんのは襲ってくるのも入ってるっしょ!!」
跡部の言う通り、口付けは明らかに跡部からが大半だった。
「黙れ。例えその分引いたとしてもお前からは圧倒的に少ない。だからしろ」
「だから、なんか知らないけど無理なんだって!!」
理由も分らずによくもまあここまで力いっぱい言い切るもんだ。
そんなふうに思いながらも堂々巡りをする会話に少し呆れて、跡部は前のめりだった体制を元に戻し無理強いしてるようなポーズを形だけ崩した。
跡部の行動に少し落ち着いた千石はあと少しで押し倒されるような態勢だったのを必死で戻した。その起きてきた顔と腰をゆっくり抱き寄せると心底分らない、と言った感じで問いかける。
「何が嫌なんだよ」
「ほら、俺清純だからぁ、キスなんてはっずかしくてできないし。っていひゃい! いひゃい!」
真顔でそんなことをのたまう千石の頬を力いっぱいと伸ばしてやる。
「……俺以外としたことあんだろ」
「え、あ、うん、それはまあ」
「じゃあいいじゃねえか、しかもお前から俺にすんのだって初めてじゃねえだろ」
跡部は明晰、とされている頭脳を使って今までのことを思い出す。頻繁にあるわけではないが、確かにこいつからしてきたこともあったはずだ。中にはそりゃもう濃厚なのだって。もちろんその主導権を持ったのは自分だが。
「まぁそりゃそうなんだけど」
「だろ? ホラこいよ」
納得しかけている千石に回していた腕を解いて脚を崩し「ここに来い」と両手を開いた。
千石もそのまま流れ任せて跡部の側へ行ったが、目が合って数秒経ったかと思うと先程よりさらに顔を赤くさせた。
「~~~~っ!! 無理っ!!」
「ここまで拒絶されっと。ショックを通り越して怒りが湧いて来るんだが?」
言葉通り跡部の眉間には皺が刻まれている。そんな跡部に悪いと思いつつも、千石は半ば逆切れのようにため息を吐いた。
「んなこと言われてもしょうがないじゃん! 無理なんだから!」
「お前な……」
「だってさぁ」
自分よりあまりにも大きな溜息に千石はたじろぎ、視線を外しながら口を開く。だが開いたはいいが、その先を考えていなかったらしく唇はその先を紡ぐ前に閉じられてしまった。
「千石」
跡部はできるだけ優しく千石の名前を呼ぶ。すると千石は思い切ったように顔をあげて叫んだ。
「ああもう、わかったよ! する!! 超濃厚なので足腰立たせなくさせてあげる!!」
「……本気で可愛くねえな。てめえ」
再び「来い」と誘えば、今度は素直にオレンジ頭は腕の中に納まる。
「目ぇ瞑ってよ」
千石が跡部の顎を斜めに持ち上げたのと同時に、跡部の片手は千石の首筋を固定し、もう片方を腰に回して逃げ道を塞いだ。
「断る。お前が本気でここまで照れるなんて稀すぎてこの先いつあるか分かんねえからな。しっかり焼き付けとかなきゃなぁ」
心底楽しそうにそう言って視線を絡める。
「悪趣味だよね、相変わ」
「千石」
言葉は遮られる。
そして、もう全てを観念したように千石は小さく息を吸うと跡部の唇に自身のそれを重ねた。間髪入れずに舌を滑り込ませる。
「……んっ…ぅんん…………」
千石の舌が入ってくるとすぐに、跡部はそれを絡め取った。
名残惜しそうに唾液が糸を引く。跡部は高揚している頬をゆっくりと撫でた。
「お前なんで嫌だったんだよ」
すると千石は身体を預けて跡部の顔をけして見ずに、聞こえるか聞こえないかギリギリの声でぽつりと呟いた。
「死にそうだから」
「は?」
「だからキスしたら跡部くんのこと好きで好きでしょうがない俺はドキドキしすぎて死にそうなの。そんぐらい跡部くんが大好きで愛しちゃってるってことだよ」
そこまで言い切ると、千石は「これ以上何か?」と全開の笑顔で跡部を見つめた。