手触りと広さで悩んだ結果、前者を優先させたソファは2人で座るとやはり狭いけれど1人で座るには少し広すぎる。
ぼんやりと見ていた洋画がコマーシャルになると藤代はそれを誤魔化すように落ちていたベージュのクッションを指先で引っ張った。そしてそのまま顎を乗せてぎゅうと抱き締めて溜息を吐く。
あと数秒で藤代が寂しいと実感するであろう瞬間、ギイと静かにリビングのドアが鳴った。音に反応してとっさに振り返ると、片手にタンブラーもう片手に羊のアイピローを持った三上がそこに立っている。
「……終わった?」
ソファの背もたれから身を乗り出して尋ねると三上は小さくまだだと呟いた。その返答になんとなく予想はしていたものの、若干の期待により上がりかけた藤代のテンションは降下する。
三上は冷凍庫に羊を入れてからそんな藤代の頭をぐしゃぐしゃ撫で回した。
その後、大量に作っておいたコーヒーメイカーからタンブラーにコーヒーを注ぐ。気に入っているはずのその香りすら今の2人にとっては何の慰めにもならない。
まるで何かの呪いのようにパソコンのキーを叩く三上が作っている文書が何なのかは分からないが、それをしないと三上が大学を卒業することができなくなることは分かる。
だから、藤代は三上が大量のブラックコーヒーを作ってそれをタンブラーに移し、羊のアイピローと共に自室に閉じこもるときは極力邪魔をしないようにしている。
男2人暮らしのアイテムに似つかわしくないメルヘンなこのアイピローは藤代が三上の為に買ってきたものだった。俺の分までちゃんと癒してやってよ、と藤代が密かに込めた念を知ってか知らずか三上は引きこもるときに必ずお供させている。
「あとどんくらいっすか?」
背筋を伸ばすように逆さにキッチンを眺めて、できるだけ明るい声を出すように心がけてみた。眼鏡を外して目のマッサージをしている三上が逆さに映る。
「わかんねえ、お前先寝てていいよ」
「ん、明日午後からだし、起きてます」
「……マジで何時んなるかわかんねーよ」
それでも起きていると返すと、眼鏡を掛け直して深い深い溜息を吐いた三上が悪い、と呟いた。
「何見てんの」
「金曜ロードショー、先輩俺がエイリアンに寄生されたらちゃんと助けて下さいね」
「無理、アレ気持ち悪い」
「なんでっスか! 先輩ゴキ平気じゃん!」
「アレは結構ちゃんと生き物って感じすんじゃん、だからいんだよ」
三上先輩の感覚ってたまにわかんないよ、と藤代が苦笑すれば三上も緩く笑った。ようやく眉の皺が消えたのに藤代は少し嬉しくなり今夜は徹夜でもいいと思った。
「じゃあ悪いけど戻んな」
「はーい。あのこ、冷たくなったら持ってきますよ」
冷凍庫で再び身を冷やしている羊を思い浮かべながらそう言った。
「さんきゅ、頼んだ」
「あ、ちょっと待って」
部屋を出ようとした三上に近づいてタンブラーを奪いテーブルに置いた。そして、ぼんやりそれを見ていた三上に向き直って両腕を伸ばす。
「先輩、充電!!」
両腕に飛び込むように倒れかかってきた三上を藤代はしっかりと抱き締めた。